[ 09.トラックス物語 ] 2009年12月22日

トラックス物語3

その日もトラックスには客がいなかった。
おかげで、安心して席に着く。
尊敬できない大人たちが、
やたらと隣に来た女性客を口説く姿は、
僕がここに来た理由を邪魔する。
他人の事など言えた義理じゃないが、
どいつもこいつも大した男じゃない。
みっともない大人は何時も政治のニュースでお目にかかっている。
自分の生活の中に奴らの様な汚物は必要ない。
だから、一人だと、非常に助かる。

運がいいと、話が通じる友人がやって来る。
彼女達もまた、一人でやって来る。
そう“彼女"なんだ。
正直、ここに来る人間のうち、
話が通じるのは女性の方が多い。
アキラをのぞいては。
もともと男性の同年代の友人が少ないが、
ここでは新しくそんな仲間を見つける事はかなわなかった。
もちろん例外も居る。
例えば、20代なかば過ぎにして3件の飲食店を経営し、
日本のどこかの森の守り神の様な嫁さんと、
もうすぐ生まれる、どうか嫁に似て生まれるといい子供を愛する、
小学校もかぶらない年下の礼儀正しい巨人。
それから、、、、
えっと、、、、
あ、終わりだ。
奴以外ここの絡みで知り合ったお気に入りの男性はいない。
ま、十分他で偉人と一緒にいるので構わないが。

すこしネガティブなイメージを書き綴ったが、
僕にとってはここは大事な場所である。
そうじゃなきゃ、
3日はとれないタバコの匂いを我慢してまでこんなところには、
絶対に来ない。
何の特徴もない店だし、店主以外は。
だから、大事な友人はここに連れて来る。
そしてやはり僕の友人はその次に京都に来た時にこういう。
『アキラ君とこ、行こうよ。』
血を分けた弟、腐らない水の様な男、地底で暮らす太陽の様な男、
マッチョTV版星野鉄郎(銀河鉄道999)。
みんなそう言う。
認めたく無いが、アキラには特定の人を惹き付ける何かがある。
ただ、当人の脳みそに、
それをどうにかするアプリケイションがインストールされていないだけだ。
それでいいのかもしれない。
きっとそんなもの手に入れようとしたら、
間違ってエロサイトでも入り込んでウイルスまみれになるのがオチだ。
器用に立ち振る舞い、余分な物を手に入れたアキラより、
何が根拠か分からないが、
アメリカでも手に入れた様な自信と、
宇宙を知ってしまった様な余裕を身に纏ったアキラの方が、おもしろい。

注意書き
トラックスは実在する。
京都の友人は知っているが、
東京の友人からフィクションだと思われたので、
一応、ここに記しておく。

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[ 09.トラックス物語 ] 2009年05月20日

トラックス物語2

tracks2.jpg
アキラは意外と人嫌いである。
出来るだけトラックスの定休日の月曜は相棒、
黒猫のロデムとテレビも無いだだっ広いワンルームで過ごす事にしている。
でも時々寂しくなって休日に僕を誘う。
本人は恐らく否定するはずだが、
やはり寂しいのだろう。
そんな時誘えるのはお互いにお互いしか居ない。
そして、二人で夕方から知り合いの店をしらみつぶしにからかって回る。
彼との会話は、後から思い出すと、何も思い出せない。
30も半ばになって、急に親友と呼べる男達が沢山出来て来たが、
彼はその中でも異彩を放つ。
あまりにも無欲。
あまりにも平熱。
熱く煮えたぎる地獄の騎士団と共に、
洋服を兵器と見立て、眼を光らせている時間も楽しいが、
この仙人のごとき男との時間もなかなかもって有意義である。

ある月曜日、
五月晴れだった日の日暮れ前から、久しぶりにアキラとゆっくり呑んだ。
珍しくビールを立て続けに流し込んだアキラは饒舌にくだらない話を続けた。
僕は持ち前の皮肉に満ちた間の手を入れながら、
店ごとに変わる名物を口にし、
いつも通り、最終的に祇園の秘密のバーにたどり着いた。
ベストに上品なしゃべり口調の同世代の店主、
小さい頃にイメージしたバーがそこに有る。
落ち着いた木のドアを開け、カウンターに座る。
場所を変えてもアキラの会話の質は上がらない。
それで良い。
飲み過ぎたアキラはこっそりアイスコーヒーを頼む。
僕はアキラと店主の勧めるがまま、いつも新しいスコッチに挑む。
この日もまたスゲーのと出会った。
ARDBEG UIGEADAIL(アードベグ ウーガダール)
almost thereも旨かったがこのUIGEADAILもしびれた。
きれいな琥珀色はとろりと艶の有る美しい光と共にグラスに居た。
しばらくニヤつきながらそのウイスキーを語っていたアキラだったが、
二口、三口とウイスキーに夢中になり、
久しぶりに隣を見ると、
夕方から呑みだした仙人はここでリミットをむかえていた。
何でも無い、特別じゃない重要な一日は終わった。
アキラと呑むといつも邪悪な気分が無くなる。
この日もやはりそうだった。
だから、夜中の12時半、祇園から一人テクテクと烏丸まで歩いて帰った。
頭の中には抱えている問題と野望と嫁に頼まれたおいしい牛乳が、
代わる代わる映像や数字になって映し出されていた。
BGMはエレファントカシマシの『今宵の月のように』
タクシーで帰ったアキラは今頃、
“飼い主”、黒猫のロデムに『俺の夕食を忘れているぞ』と叱られている頃だ。
僕は烏丸を超えて、ようやく見えて来た我が家の手前、
後一息のところで、
ハートランドビールの生で誘惑する知り合いのイタリアンで捕まった。
そして、案の定おいしい牛乳を買い忘れ、
僕も"飼い主”、黒髪の嫁に『私の牛乳を忘れているぞ』と叱られた。


投稿者 sakai : 00:20 | トラックバック

[ 09.トラックス物語 ] 2008年12月28日

トラックス物語1

木屋町の実に特徴の無いビルの2階に、
特徴しか無い人々が集まるバーがある。
タバコ臭くて、洗えない服を着ては行けないバーだ。
カウンターのむこうにはその昔、
大手セレクトショップで働いていた元男前"アキラ"が常時ニヤついている。
『かわいこちゃん』が大好きなたれ目のだめ男。
死んだら骨を拾ってやろうと思っている僕の大親友。
こいつがなぜか人を集める。

冬の土曜の夜、牡蠣を電磁波で殺して食べるのが恒例のそのバーで、
昨夜は今年最後の牡蠣をつまみながら夜更けまで飲んでいた。
20人ほど客の半分以上が顔なじみ。
アードベグのスペシャルボトル、
『Almost there』などという素敵な名前のモルトをなめながら、
仲間と牡蠣を電磁波で抹殺しては、塩だのポン酢だので胃袋へ落として行く。
そこに一人、手相を研究する絵描きが居たために、
女史達の人生相談所と化したテーブル席から逃げ出し、
カウンターでアキラとロンゲの先輩にウィスキーをつきあってもらいながら、
やがて来てしまう自分の順番をなんとか回避しようとしたが、
やはり無理であり、
その上、スッポットライトで照らし出された僕の手相は、
『狂ってる』の一言以上のコメントをもらえなかった。
一通り手のひらが閉じた頃、
著名なクラシックギタリストのライブが始まり、
手相をぼろかす言われた一人の美女が聴き惚れてずっと床を睨みつけていた。
そうしている間に夜はどんどん加速して、
次から次へと客がやって来て、アキラはいつの間にか酔っぱらいだしていた。
そんな毎日がこのトラックスではもう何年も続いている。

アキラの酒は旨い。
特にビール。
黒ラベルが好きになったのも奴の生ビールを飲んでからだ。
酔っぱらうとすぐに女の体を触る全く持ってどうしようもなくだめな男だが、
バーテンダーとしての誇りと責任はしっかりと持っている。
まじめに話しだす酒の話は案外面白い。
人を笑わせる事が好きな割に、
いつも落ちの無い小話にがっかりさせられるが、
酒の話は聞きいってしまう。
時折、その真剣な顔を見て吹き出しそうになるが、
それも彼との付き合いでは必要な事のひとつだ。
ヤニ臭い店内で、男二人きりの真剣な討論は今までに何度となく繰り広げられ、
結局最後はお互い昔はちょっとはモテたと慰め合って終わる。
これも変らず何年も続いている。

昨日で今年のトラックス納めにしようと思ったが、
何となくもう一度くらい行きそうな気がする。
別にそんなにアキラの事を好きなわけではないが、
お互い、友達がそんなには居ないのが二人を引き合わせる理由のひとつだと知ったのは、
つい1年前の事だったと思う。

投稿者 sakai : 16:52 | トラックバック